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仙台地方裁判所大河原支部 平成7年(ヲ)54号 決定 1995年12月11日

主文

本件申立てを棄却する。

理由

1  申立人は、当裁判所が当庁平成六年ケ第六一号不動産競売事件について平成七年八月九日になした売却許可決定の取消を求め、その申立ての理由は別紙記載のとおりである。

2  そこで判断するに、一件記録によれば、次の各事実を認めることができる。

①  当裁判所は、財団法人公庫住宅融資保証協会の申立てにより、平成六年一二月七日、別紙物件目録記載の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)について不動産競売開始決定をした。平成七年三月三一日に当裁判所執行官が現況調査報告書を、同年四月六日に評価人が本件不動産の評価額を一三六七万八〇〇〇円(一括売却価額)とする評価書を各提出した。そこで、当裁判所は、上記評価書に基づき同月一九日、本件不動産の最低売却価額(一括売却価額)を同評価額と同じ金一三六七万八〇〇〇円と定め、これに関する物件明細書を作成した上、この明細書とともに前記評価書及び現況調査報告書を当裁判所内に備え置き、その後、期間入札の方法で本件不動産の売却を実施したところ、入札期間中の平成七年七月二六日、申立人から本件不動産を金一六二二万六〇〇〇円(一括売却価額)の最高価で買い受ける旨の申出がなされたので、当裁判所は、同年八月九日、申立人を適法な最高価買受申出人と認め、同金額で本件不動産を売却することを許可する旨の売却許可決定をした。しかし、申立人は未だ前記金額を納付するに至ってはいない。

②  ところで、申立人の買受申出前である平成五年二月二三日ころ、本件不動産の隣地である山林において、本件不動産の所有者佐藤剛の妻が自殺したことがあったが、申立人は、売却許可決定を受けた後になって初めて上記事実を知り、別紙記載の理由により、平成七年九月四日当裁判所に対し、前記売却許可決定取消の申立てをした。

③  当裁判所執行官及び評価人は、現況調査の際に、上記所有者から上記事実を聴取したものの、本件不動産の評価に当たり考慮すべき減価要因には該当しないものと判断したため、前記現況調査報告書、評価書には当該事実を記載しなかった。また、評価人は本件不動産の評価にあたり上記事実に基づく減価をしなかったし、最低売却価額の決定に際しても上記事実は考慮されていなかった。

本件申立ての後、当裁判所は、自殺があったことを前提とした評価額につき、あらためて評価人の意見を求めたところ、評価人は、平成七年一二月四日、当裁判所に対し、右自殺があったことにより評価額を変更する必要性は認められない旨記載した意見書を提出した。

2  以上の事実をもとに、民事執行法七五条一項、一八八条の適用につき検討する。

人の居住用建物の交換価値が減少をきたすというためには、買受人本人が住み心地のよさを欠くと感じるだけでは足りず、通常一般人において住み心地のよさを欠くと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とすると解すべきである。これを本件についてみると、上記自殺が発生した場所は、本件不動産内ではなく、本件不動産に隣接する山林であって、本件不動産に居住した場合に、上記自殺があったところに居住しているとの話題や指摘が人々により繰り返されるとか、これが居住者の耳に届く状態が永く付きまとうといった事態が生ずるとは、にわかに予測することは困難である。また、前示のように、平成七年一二月四日に提出された評価人の意見書においても、自殺があったことを前提としても評価額を変更する必要性は認められないとされているところである。

してみると、本件のように物理的損傷以外のもので、かつ、買受申出以前の事情による交換価値の減少の場合にも民事執行法七五条一項、一八八条が類推適用されると解することができるとしても、本件において、一般人において住み心地のよさを欠くと感じることに合理性があると判断される程度に至る事情があり、本件不動産につき交換価値の減少があるということはできないといわざるを得ない。

したがって、本件申立ては理由がないので、主文のとおり決定する。

(裁判官 鹿子木康)

別紙<省略>

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